「この時計、査定して!」
ある日、ご来店早々、そう言い放たれた60代の男性。
その勢いに、私は一瞬たじろいでしまいました。
というのも、通常はご来店いただくと、まず受付シートにご記入いただき、簡単なヒアリングをしながらお話を伺うのが当店の流れ。
ところが、その男性は受付シートを見るなり、
「え、名前とか住所とかいらんねん。とにかく査定してきて!」
はい… なかなかの迫力です(笑)
差し出されたのは、18金を使用した年代物のレディース腕時計。
このときの私は、まだ知る由もありませんでした。
この男性が、実は買取店の実力を見極めようとしていたことを。
正直、ちょっと怖かったんです
査定をするにあたり、購入時期や、どなたが使用されていたものなのかを伺いました。
すると、
「母親の遺品やねん。とりあえず見て!」
と、少し苛立ったようなお返事。
それ以上、伺うのは危険だと察知し、必要な確認だけをして査定に入りました。
実は、私の勤める買取店は、すべてのお品物を店頭だけで査定するわけではありません。
お品物のジャンルに強い複数のバイヤーと交渉し、その結果をもとに査定額を提示するスタイルです。
今回の腕時計も、数社のバイヤーに確認を取りました。
ところが、その間もお客様は、貧乏ゆすりをされたり、店内を歩き回られたり……。
私から見ると、どうにも落ち着かないご様子。
「バイヤーからの返事はまだかな……」
「お待たせしていることに、イライラされているのかな……」
そんなことを考えながら、ヒヤヒヤしていました。
査定額は30万円。すると意外な質問が……
ようやく数社から返事が届き、お客様のもとへ。
「お待たせいたしました。今回、とりあえずの査定ということでしたので、現時点では30万円です」
そして、
「もし、この場でお譲りいただけるようでしたら、もう少し高く買い取れるように、再度バイヤーに交渉します」
とお伝えしました。
すると男性から、
「そーか。ちなみに、その査定額はどーやって出したんや?」
と質問されたんです。
私は、当店の査定方法をそのまま説明しました。
「当店では、私たちだけで価格を決めるのではなく、そのお品物に強いバイヤーに連絡を取り、交渉しています」
「今回の時計も数社に確認し、その中で一番高い金額を提示してくれたバイヤーの価格をもとに、お客様への査定額をご案内しています」
すると……
それまでの男性の表情が、一瞬で変わったんです。
「あんたのところは信用できる」
先ほどまでの険しい雰囲気が、嘘のように柔らかくなりました。
そして、男性が仰ったのが、
「うん。あんたのところは信用できる」
という一言。
えっ!?
あれだけ緊張していた私は、思わず拍子抜け(笑)
そこから、男性はご自身のことをお話ししてくださいました。
実は以前、貴金属を扱う会社にお勤めだったそうです。
現在は引退されているものの、貴金属の価値や、販売価格と買取価格の違いについても、よくご存知でした。
つまり、今回お持ち込みになった時計も、ある程度の価値を理解されたうえで査定に出されたとのこと。
そして、当店がどのような仕組みで査定額を出しているのかを知り、納得してくださったのです。
なるほど……。
そういうことだったのね!
最初から言ってよ~!
と、どれほど思ったことか(笑)
今回は売らない。でも、次もお願いしたい
そして、お帰りになる際に、こんな言葉をいただきました。
「今回のこれは持ち帰るけど、次回からはダイヤモンドやエメラルドなどの色石の指輪とかも持ってくるし、よろしくな」
そう仰って、笑顔で退店されました。
いやーーー。
久しぶりに冷や汗をかきましたよ(笑)
本当にホッとしました。
ちなみに、今回の腕時計はお持ち帰りになったので、お取引は成立していません。
それでも、私はとても嬉しかったんです。
買取店の信頼は、金額だけでは決まらない
買取店を利用するとき、誰だって1円でも高く売りたいですよね。
もちろん、それは当然のこと。
でも、今回のお客様から改めて教えていただきました。
お客様が見ているのは、査定額だけではないということ。
「どうして、その金額になったのか?」
「どんな方法で査定しているのか?」
「このお店は信用できるのか?」
そんなところも、しっかり見ていらっしゃるんですよね。
そして、これは買取店を利用される皆さんにも、ぜひ知っておいてほしいことです。
査定額に疑問があれば、遠慮せずに理由を聞いてみてください。
すべての査定方法や価格の内訳を詳しく開示できるとは限りませんが、納得できる説明をしてくれるかどうかは、お店選びの一つの判断材料になります。
また、今回のように複数のバイヤーと交渉するお店もあれば、自社で販売するお店もあります。
どちらが必ず高く買い取ってくれる、というわけではありません。
現役買取店スタッフとしての本音
今回のお客様。
最初は本当に怖かったんです(笑)
でも、振り返ってみると、私にとっても大切な経験になりました。
相手がどんな態度でいらっしゃっても、こちらは誠実に対応すること。
そして、聞かれたことには、できる限り正直にお答えすること。
当たり前のようで、改めて大切だと感じました。
今回、時計はお買い取りできませんでした。
でも、それ以上に嬉しい言葉をいただけた気がしています。
とはいえ…
次回は、もう少し穏やかな雰囲気でご来店いただけると嬉しいなぁ(笑)
これが、正直な私の本音です。

コメント